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マギー

2025/5/12

要はインスタントラーメンである。日清のインスタントラーメンと同じで、チリチリにカールした麺が四角く固まっている。マギーという。元々マギーというのはスイスの会社名で、いわゆるマギーブイヨンを100年以上前に発明した会社である。今はネスレに買収され別の会社になっている。あらゆる栄養素を固めた非常食であったが、いつの間にやらその効能が世界に広がって、料理という料理の味付けとして使われるようになった。和食であれば醤油であろう。これが高度成長期の日本でも、シチューと呼ばれる欧風家庭料理に味の必須アイテムであるかのように広がった。ここインドはマギーと言えば、会社名ではなくインド風ラーメンのことである。子供も大人もみんな大好きなメニューである。もちろん高級レストランでは見かけないが、田舎に行けば行くほど、マギーは必須アイテムとして普及している。ラーメンに近い。日本のラーメンは創意工夫が凝らされているが、ここではインスタントが立派な郷土料理であるかのようにブランド力を保っている。味はインスタントラーメンの袋から出てくる粉そのものである。思いっきり人工的な旨みのパンチ。自然な風味はゼロである。

ここタワン地方でも同じで、それをインディアナジョーンズの映画に登場するような、古びたキッチンで作っている。いわゆる厨房器具というステンレス家具はなくて、今にも燃え移りそうな真っ黒に汚れた木の床にバーナーを置いて、グラグラ水が大鍋の中でたぎっている。そのお湯で、先に火を通しておいた野菜と麺を戻してステンレスの深皿に入って出てくる。赤や緑が入っているが、原型はないのでなんだかわからない。時々飛び上がるほど辛かったり、生でガリガリだったりする。汁は少ない。焼きそばとラーメンの間ぐらい。フォークではなくスプーンで食べる。戻す時に何故か指先で細く砕いてしまうので麺が短い。全部がインスタントラーメンを食べる時、底に最後に残る麺の断片である。インスタントラーメンのお湯を本来の三分の一にするとこんな感じになる。しょっぱい。当たり前である。私達は飲むために出されたお湯を足して凌ぐが、現地の方々は老若男女問題なく美味そうに頬張っている。腎臓を痛めそうな気もするが、よく考えてみれば入る塩の量は同じであるから気にしないことにした。ともかく味が強い。ボクシングのストレートパンチのように効く。グルタミン酸ナトリウムをマギーブイヨンに掛け合わせた飽和水溶液である。この地方の味付けは強い。このくらい強くないと味とは言えないのだと思う。「いつか慣れるさ」とたかを括っていたが、難しい。その強烈な味のパンチの合間に、お湯で薄めたマギーを食べている。お店のお姉さんは不思議そうにその私を見守っている。歯が無くなったお年寄りが頑張って食べているのを気の毒そうに見守っている優しさがある。そこで、「ちょっとお腹が痛くて。」とごまかしたら、細かい麦粒のような穀物と葉っぱを出してくれた。フェンネルかクミンであると思う。消化に良いそうである。葉っぱに包むと良いそうである。口に入れたら、見ての通りやっぱり穀物である。道端の草に脱穀前の米を包んで出すとこんな感じになる。ニワトリなら喜んで食べるかもしれないが、ちょっと私には無理。口に含んでニッコリ。噛むふりをする。お姉さんがいなくなったのを見計らって、紙ナプキンの上に出して包んで証拠隠滅。タワン地方の人達は皆親切である。だから食べ物を残す罪悪感がどうしても消せない。今帰途の機内にいる。マギーが懐かしくなってきた。マギー中毒に違いない。また食べたい。

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