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壁のないこと

2025/3/10

初めて壁のない学校が実現された。場所はドバイである。この地が先鞭をつけたのには理由がある。Not necessary to be perfect but try to be goodという、失敗を恐れないリーダーシップの存在である。空間の配置はクラスター型である。クラスター型という正式な学術用語はない。このプロジェクト以前には未だ世界のどこにも存在していないからである。このクラスター型の教室構成については、10年以上前から日本に限らず世界で幾度も提案の機会があった。コンペで選ばれても実現しなかった。国内では建設の一歩手前まで進んだこともある。しかしながらいずれも実現の一歩手前で何らかの事情が勃発し頓挫している。頓挫してきた理由は様々であるが、結局の原因は変化への恐れである。

本体は宇宙船のような円盤型をしている。1960年代の文化財である。レトロフューチャーとへ表現すべきか。スタートレック世代の極めて未来的な形態を遺している。内部は半世紀の浪に洗われ全く元の面影はない。砂漠の天蓋を模したのであろうが、換気も採光も失われていた。八つの天窓は空調機で塞がれていた。今回は皮一枚と構造を残した全面改修である。丸い平面形状は設計者にとっては暁光であった。矩形に囚われず、大地の上の自由に地上絵を描くように平面図を描くことができる。イスラム界にはホロスコープという宇宙図がある。1411年にイスカンダール王子によって描かれた世界観である。この宇宙図が驚くほどに今回の平面形に似ている。ドバイは砂漠の都市である。無限の天蓋が覆う砂漠の海。その下に民は身を寄せ合い都市を創生した。道標は星だけ。奇跡の殷賑がそこに生まれた。

教室という概念はない。集まりである。三日月型のクッションが50㎡程の丸い絨毯を包みこんでいる。内側は柔らかく包み込むように凹んだバナナ型。モデルは立川のPlay! Museum Play! Parkのクッションである。Play! Parkのそれと違うのは片方が開いているところである。アルファベットのCと似ている。Cを向き合わせることで、繋がりが生まれる。教室で椅子は使わない。絨毯の文化である。プフと呼ばれるミカンのような形をしたクッションを使う。直接座ってもよい。机は足を折り畳む日本のちゃぶ台を参考にした。子供を分ける為の教室はない。ここは人が集まる場所である。「集まる」ことは「集める」事ではない。集まる時に壁は邪魔である。建物の中心部には丸いクッションの皿がある。原理は立川にあるPlay! Parkと同じである。子供に指図は無粋である。子供は何が楽しいか知っている。ルールは要らない。子供達は育つ。次第に小さなグループの為のスペースが必要になるである。個人のスペースも必要となる。考えて行かねばならない。しかし、旧来の四角いクラス分け教室に戻ることはもはや無い。

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