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娘はグルメ

2019/10/7

我が家の娘はグルメである。これは最近始まった事ではない。まだ言語を解する前の生後数ヶ月に始まった。共働き家庭の我々は生後3ヶ月で保育ママに娘を預けた。とても素敵な保育ママさんで娘はよく懐いていた。ところが娘がどうしてもママが作ったお弁当を食べてくれない。すると保育ママの友達が「不味いんじゃないの?」の一言。確かにその頃の妻は全く料理が出来なかった。結婚したては鰹節をぐらぐら煮立てて蕎麦だしのようなエグ味タップリの味噌汁を作っていた。鰹節というものは、そっとお湯の中に落として、空気が入らないようにそっとそっと扱うもんだと言ったら、「冗談じゃない!私は料理する為に結婚したんじゃない!」と妻は怒っていた。私は料理にうるさい。あんまりうるさいものだから妻は料理が嫌になり、新婚からしばらく料理は私の担当になった。料理の精度は常に夫婦喧嘩の種で、それが10年経って子供が生まれた時も続いていた。ただし娘の離乳食は妻が作っていた。そこで起きたのが「不味いんじゃないの?」事件である。これは手塚家の沽券に関わる。保育ママからのクレイムを受けて奮起した私は、御品書き付きの離乳食を作った。椎茸の出し汁を使った極めて手の込んだ品である。するとペロリと全部食べた。やはりそうか。。。ある日仕事の接待で京都吉兆に招致された。まだ一歳の娘にも一人前が出てきた。娘は好き嫌いが激しい。ところが吉兆の食事は全部食べるではないか。なんと彼女が許せないのは食材ではなく料理の腕だったのだ。我々は思い知らされた。とはいえ家庭で吉兆程の手間暇をかける訳にはいかない。吾輩は建築家である。いい加減にしろと言いたいとこだが、ハンガーストライキを決行する娘をみて、妻も心機一転料理を研究するようになった。夫がいくら文句を言っても改善しなかった食が、娘のハンガーストライキを機にみるみる改善され始めた。夫とはその程度のものか。

今や娘は16才。妻のお弁当は今や娘のクラスメイトの間で評判になり、「ぶなちゃんのママはレストラン開いた方がいいよ。」と言われるまでに熟達した。お弁当を持っていくとクラスメイトにとられてしまうからお弁当は余分に作る。娘が小さい頃は私もかなりの部分弁当を作っていたが、今や厳しいスケジュールのせいもあって妻が殆ど作っている。我が家では人工調味料は一切禁止。鰹節だって朝削る。素材の味を活かした料亭そこのけの味である。料亭やレストランに行ってもなかなか満足することはない。強いて言えば、等々力にある「會」だけは別格であるが。

そのワガママ娘が作った今朝の一品がこれである。昨日は国内外のゲスト10人を迎えてとんかつを振る舞った。その時の副産物である天かす、正確には揚げパン粉を流用した。ご飯は圧力釜で炊く。我が家は電気釜を使わない。鍋で炊いた方が圧倒的に旨い。甘くて宝石のように艶々で弾力抜群の飯が炊き上がる。土鍋はもっと美味いらいしいが。これに卵に黄身を落とし込む。そしてそれを泡立つまで混ぜる。娘にもどのくらい混ぜるのと聞いたら、気が済むまでという。一分ぐらいかき混ぜて「このくらいでいい?」と聞くと、まあいいけど私ならもっとやるという。まるで魯山人である。混ぜ終わると飯がメレンゲのようにフワフワになる。そこへ黄身を落とし込んでそっと混ぜる。なぜ黄身は最初から入れないのと聞くと、最初から入れるとフワフワにならないという。そこへ揚げパンかすにヒマラヤの塩を軽く振る舞って大さじいっぱい載せる。そこに醤油もしくはとんかつソースを軽くかける。醤油が王道であるが、ブルドックのトンカツソースを使うとソウルフードになるという。正直トンカツソースは邪道な気もするが、娘の倫理観にトンカツソースは引っかからないらしい。それを素早くサッとかき混ぜ、パン粉のサクサク感が失われる前に掻きこむ。旨い。

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