『フクラス』都市を考える

僕たちも、だんだん都市を考える建築家になってきた。それを一番感じたのは、渋谷の『フクラス』を手掛けた時です。

「都市に対して開いている町をつくらなきゃいけない」これは、浜野安宏さんという人の考えが生きているんです。
「おまえもいつかでっかい建築をつくる機会をもらうかもしれないけど、絶対一人でデザインするなよ。一人でデザインするとロクなことがない」と言われました。
それで9年前『フクラス』という、大きな建物を手掛けることに。5万㎡という面積があり、町の中に建てば大変なバケモノです。で、その時にきめたのは、絶対、都市に閉じた超高層はつくらない。ちなみに高層ビルで、路面がずっと開いている建物はほとんどないかもしれないです。みんな、閉じている。
『フクラス』は入り口が一カ所で、入ってから中を回れる。法律上そういうきまりで、そういう構造になっちゃう。火事が起きた時、火事が中で広がらないようにとか、いろんなきまり事があって、中も外も開いているのは高層ビルではないんです。

―――多くの人が関わるので、仕事の難しさとかはあったんですか? 戦いをしながら?
戦いというか、僕たちは仲良くなりながら、しつこく言い続けるんですよね。それはある意味、おもしろくて、あのプロジェクトは8年半関わってきたんですが、最初は「おまえ、バカなこと言うんじゃない」と怒られるわけですよ。でも、ずうっと同じことを言い続けると、世の中っておもしろいもので、行政の人も、不動産関係の人も、どんどん人が入れ替わっていく。「こういうことです」と言い続けると、みんなもそうだね、とだんだん変わっていく。うちの事務所の人間は最初からずっと代わらないので、ずうっと同じことを言っていました。

『フクラス』というのは、町にひらいた高層ビルだと思うんです。1階に路面店があって、たくさんの人が行きかう。そして私の知る限り、屋上を使った唯一の超高層だと思うんです。ふつうは展望台しかない。あれはなかなか法的に難しい。でも、どうしても、屋上を使いたいと相当がんばってできた。デパートの屋上のビアガーデンじゃないですよ、デパートのビアガーデンは低いから。これは高層ビル。

じつは高さ100mを超えるところに、木が植えてあります。最初、「風が強すぎて木なんか、ダメです! そんなところに植えたら、全部とばされちゃいますよ」とみんなから反対をされて。ランドスケープの人と話をしても、みんなそう言う。だけど、山ってもっと高いよね。500mの山だって、木がちゃんとはえている。『フクラス』はたった100m。できるんじゃないかって、僕は言い続けました。実際、ちゃんと風のことを考えてつくったら1年間無事で、ぜんぜん大丈夫。日本は雨が降るからダメだとか、いろいろ言われながらも。
雨でも人は傘をさして、わざわざ屋上にあるセラビというお店に行きます。人間って、おもしろいですよね。冬にわざわざ、地上100mの風の吹く外へ出て、温かいものを食べるんですよね。屋上なんてシンガポールでしか成立しないんだよとか言われていたけど、ふたを開けてみたら、とんでもない、人がいっぱい来て。そういうのも、人の思い込みでしかないんだなって。