心と胃袋
由比
『屋根の家』の高橋さんが、「胃袋をつかんでいれば大丈夫。そうすれば、子どもはちゃんとついてくるよ」って、前に教えてくれたことがあって。
貴晴
人間の心をつかむには、まず胃袋をつかめと。子どもも、旦那さんも、仲間でもそうだと思うんだけど、その時に心を込めて、一緒にたのしめるような食事をすることが、すごく大事なことだと思うんですよね。
なんでそういう話をするかっていうと、建築家じゃないですか、僕はもともと。ときどき建築家にも、料理とかを、すごいがんばる人がいるんですよね。これってやっぱり物を理解する時に、ものすごく大事なことだと思うんです。
僕は建築学科の学生に、キッチンを設計しようと思ったら、料理をしないとダメだよって言っています。料理をしたことがない人が、いいキッチンなんかつくれないよって。アウトドアをわかっていないと、そのアウトドアに代わるような建物はできないというようなもので、まず自分で体験して、いろいろ感じてみないと。だから建築家というのは、雑学がとても大事で。
僕は料理から、たくさんのことを教わった。まず料理は、安いものが高いものよりも、ダサいわけじゃないんですよ。安いもののほうが、高いもののより、おいしいことがある。そばが、ステーキより、ずっと安いんだけど、ものすごくおいしかったりする。建築も、値段じゃない。どれだけ気持ちを込めてつくるか、どういうコンセプトでつくるか、そこがものすごく大切なことだと思っていて、料理をすると、そういうことをいろいろと教わるんですよ。
それから料理は、栄養があればいいというものじゃない。たのしみがなくちゃいけないし、誰のためにつくっているかって、すごく大事だし、そこにどんなことが起きるだろうかって考えたり。
建築は単に物ではなく、建築で何が起きるかが、すごく大事だっていわれている。私たちの建物は、小児がんの子どもたちの手伝いをしたりとか、不妊治療の手伝いをしたりとか、津波にあった木の思い出を建築にいかしたりして、その人たちが喜んでくれることを想像してつくっているんです。
それは料理をつくる時も同じ。クラブ活動で疲れて帰ってきた時は、ガツンとしたものを食べさせてやろうとか、夫婦で食事するときは、少しつまめるものをつくろうとかね。
建築は高い材料を使ったからいい物ができるわけじゃない。大きい建物をつくったから、いいわけじゃない。料理もお腹がいっぱいになったから、いいっていうわけじゃないでしょ。少なくても、ちょうどいいものもあるし。食べ物の話題って、話のネタとして、ものすごくいいんですよね。