素材

貴晴
コロナ禍になって二人が家にいることも多かったから、代わりばんこで、ごはんをつくったりするんだけど、やっぱりうちでつくるエッグベネディクトは、どこのエッグベネディクトよりもおいしいって思う。朝ごはんで、食べるみそ汁も、どこよりおいしい。息子や娘も、どこかへ行って泊まって帰ってくると、「うちのごはんが、一番おいしいね」って。どんなに高いレストランよりも、うちのごはんがおいしいって。これって、高価な食材を使っているわけじゃないですよ。ふつうのスーパーに並ぶ素材で、ちゃんとつくってあげればいいんです。

由比
素材を生かすというか、料理も建築も、そこが大事で、似ている。そして、いろんなものが分析できない集合でもあるし。

貴晴
あと、もう一つ建築と料理の似ているところは、建築は自分のためにつくるわけじゃない。自分のためという場合もあるけど、基本は人のために。そこで使う人のことを考えて。
『富岡商工会議会館』の建物をつくったときは、その商工会議会館に来る人、地元の町の人に対してつくるわけです。ここで会議をしたり、利用する町の人たちの顔を見ながら、意見を聞きながら。そうすると、今までめったに商工会議所に来なかった人たちや、日常の通りすがりの町の人が入ってくるような、そういうアクティブな場所にできあがっていく。すると町並みが変わっていったりして、よかったねと。

料理もそうで、自分のためにつくると、ろくなことがないですよ。人に食べさせたいから、こういうのをつくってみようかって思うし、工夫もするし。暑い時、涼を感じるゼリー寄せみたいなのを出してみようかとかね。建築も、料理も、いつも相手がいるわけですよ。自分のために、ゼリー寄せなんかつくっても、おもしろくもなんともないですよ。

――手塚さんは施主を自宅に呼んで、食事をつくって打ち合わせをしていたんですよね。
以前は、よくやっていましたね。いまは、そこまで時間がとれなくて。
たまにやったりする時もあるけど、この前は、子どもの学童保育みたいな施設をつくっていて、そこで出す料理を考えようって。何百食とつくらないといけないから、そのシュミレーションとして、朝起きて2時間ぐらいで10品つくって、それを食べてもらったりしたかな。食べ物の話題は、相手とのコミュニケーションが一番とりやすくて、いい機会だと思ってやっています。