子どもは耐水性というはなし

貴晴
『ふじようちえん』に、ドイツ人のある研究者が来ました。コロナ感染以前は専門家や研究者が年間に万単位で見学に訪れ、外国人だけでも毎月200人前後、日本人はもっとたくさん来ていました。
そのドイツ人の研究者が「これ、外廊下ですよね。雨が吹き込んだら子どもは濡れちゃいますよね?」「濡れてもいいんです。日本では子どもというは、濡れたら着替えることになっているから大丈夫なんです」と園長先生。「いや、そうはいっても、濡れちゃうでしょ?」「いやね、日本では子どもは耐水性なんです。洗ってもいいんです」と、まあ屁理屈の多い園長先生で。でもこれって、すごい大事な話だと僕は思っていて、人間っていうのは、そんな大事に箱にしまっておくもんじゃないんだよって。

人間というのは夏の暑いなか、わざわざ熱い砂浜に行くし、冬、寒いのにマイナス20℃のゲレンデにも行く、人間ってそういう変化を求めるんです。快適な温度にいれば気持ちがいいと思うかもしれないけど、そればかりじゃない。建築学の中には計画学という世界があって、何度から何度までが快適だというストーリーがありますが、じゃあ、なぜ雪山に行くのか。足の裏がやけどしそうな砂浜を踏んで海水浴をするのか。それはたのしいと思うからで、あたりまえのことだけど、そこには数値化できない目的がある。たのしいというのは、どういうことか。たぶん、人間が本来の状態に戻れるということだと思います。

ふじようちえんで暖房をつけるのは年に2、3カ月ぐらい、あとは窓開けっぱなし。半袖、半ズボンで走り回って健康的だと誰もが思うでしょ。でも、みんなやらない。なぜだろうって思うけど。人間ってけっこう丈夫で、僕はいつもTシャツで歩き回っていてけっこう平気。人間ってその環境に慣れていき、そうやって生き残ってきたんです。その人間本来の姿に、園長先生は戻そうとしているんじゃないかって。

菌の話(2021/10/18)に戻っちゃいますけど、ふじようちえんには、いわゆる木枠で囲って砂が入れてある砂場はなくて、その代わりダンプカーで砂を運んできて、ザザッーと地面に流しただけの広いスペースがあります。猫は砂場の端っこのほうで糞をするって言われているけど、四角く囲うとそこで糞をするんですよ。ふじようちえんのような膨大なスペースだと猫はかえって糞をしない、だから砂を殺菌するようなこともしない。そういう意味では菌はいっぱいいるし、虫もいっぱい。でもそれが本来の自然の姿で、子どもたちはその中で自然のバランスを身につけていくんです。 また、部屋の仕切りがなく、いろいろな音があちこちから聞こえてくる中で過ごすうちに集中力もつく。さっきの雨に濡れる話も全部同じ話で、雨も生態系の一部、水に濡れても子どもたちは平気になっていきます。ふじようちえんが世の中の多くの人にこれだけ受け入れられたのは、そういうところなのかもしれないなと。建築を通して人間本来の姿や生き方、考え方なんかをもう一度見直すきっかけになるといいなと思います。

由比
最近は安全に、安全に、と幼稚園がつくられていくけど、「なにか、それはおかしい・・・」って、じつはみんなも気づいているんじゃないかな。ふじようちえんの園長先生は、「このぐらいまでは大丈夫」みたいな器用範囲があるんだよね。

貴晴
昔は、それで困ったことにはならなかった。そういうことを園長先生は教えてくれているよね。