未来へのメッセージ

南三陸に大雄寺(だいおうじ)という約500年の歴史がある寺院があって、昔からあるお寺というのは単なる宗教施設ではなく、ある意味、避難拠点となる大切な場にもなっています。3・11の震災以前にも南三陸地方には津波がきていて、昔からの古い建物が残っているということはその被害を免れてきたことを意味します。あるいは以前、津波の被害にあった場所では、そのことを伝承するために津波石を建てたりしていますが、長い年月が過ぎるうちにそういう教えがだんだんと薄れ、いつしか村がつくられていく。それはそうですよね、海沿いのほうが生活するには何かと都合がいいんですから。

その大雄寺は高台にあって、そこに通じる階段には「かつて津波がここまできた」という記録の線が目に見えるように引かれています。和尚さんも「地震がきたら、ここまで逃げて来なさい」とみんなに言い聞かせ、代々の住職たちもそのことを語り伝えてきた。寺という一つの生命体が人に対して提唱し、人の命を救ってきたわけです。
僕らもそれと同じようなことが何かできれば・・・と津波を被って立ち枯れした参道の木を使い、津波で流されてしまった『あさひ幼稚園』の再建をしました。住職が園長先生でもあったので、以前の場所から大雄寺の高台に移し「この杉の木はいまから400年前に植えられ、2011年の津波で枯れたんだよ。また津波がきたら、ここまで逃げてきなさい。あなたの命は助かるからね」というメッセージを込めた未来へのタイムカプセルです。

じつは被災していち早く復興した公共施設の建物が『あさひ幼稚園』でした。子どもを安心して預けられるところがないと親が働けないからで、上棟式の時は町中の人が集まり、大勢の人が泣いていました。復興するうれしさもあったけど、使われる木材が参道の木だとみんなも知っていて。子どもを産むことによって命をつなげ、また地元の木が建物となって次世代へつながっていくことに、ああ、こうやって歴史はつながっていくんだなって思いました。「また木を植えよう、400年経つとまた大木に育つからね」プライドをつなげていくって、こういうことかと学んだ仕事でもありました。