お寺は古くて新しい

お寺というのは古くて新しいところです。古いというと、どうも古くさいものだと勝手にイメージしてしまいがちですが、知恵というのは古くはならない、知識は古くなるけど。知識は単なる情報でしかなく、知恵はそれをどう賢く使うか。賢い人が勉強できるというわけじゃないですよ。

長い年月に耐えうる建物をつくる時、普通に考えるとテクノロジカルに合理的なトランス構造にして金物を使えばいいと思うかもしれませが、千年という時間を経ていまも残っている日本の建築物は嵌合(かんごう)結合(はめあい)といって、一本の釘も使わずに木材同士を嵌(は)め合せた技術が使われています。
そして川の流れが時を経ながら移り変わるよう、建物も木材を替えながら何百年と残っていく術を先人たちは編み出してきた。じつは千年以上前に建てられた木造建築はどんどん木材の木が入れ替わり、当時からの木はほとんど残っていないに等しいんです。柱が少し部分、部分に残っているかもしれませんが、梁は新しいものと入れ替っている。どうしたって木は腐っていくわけだから。木造建築とはそういうもので、その代わり知恵が残っていく。物理的なものが残っているのではなく、知恵が残り、それが歴史となっているわけです。
法隆寺が世界遺産に登録されようとした時、欧米がなかなか認めようとしなかったのは使われている木が昔のものじゃなかったから。欧米からすると使われている石がいつの時代の石なのかが大事で、日本ではその知恵の伝承がものすごく大切なことなんです。

じつは日本には世界最古の建設会社が今も健在しているんですよ。金剛組といって創業は578年。ここは四天王寺建立のためにかかわった宮大工が創業し、以来ずっと寺のメンテナンスをしてきました。法隆寺のような古い寺もそうで、そこには引き継がれてきた技の伝承があるから。じつは南三陸町の『あさひ幼稚園』も嵌合結合の伝統構法で建てています。そういう先人たちの技術が今も生きているってことはすごいことです。