仕事から学ぶ

貴晴
しつらえのあり方に成功した家といえば、『鎌倉山の家』だと思います。僕らがはじめて手掛けた住宅で、すでに20年以上経つけど、今もその家族は幸せそうに暮らしています。山の単なる空き地だったところに家を建てたら隣地が自然公園になって、目の前の森がどこまでも続く、まるで自分の庭のような気持ちになって暮らしているね。

由比
でも、遠くに家が一軒建ってしまって「あそこに家が建っちゃったんだよねー」と残念そうに言っていたけど。とても贅沢な環境だなって思う。

貴晴
2500万円くらいの低予算で建てた住宅だから、建築はそんなにりっぱじゃないかもしれないけれど、まわりの自然にとけ込むように考えてつくったよね。この『鎌倉山の家』を見て、依頼してきたのが『屋根の家』の高橋さんで。僕らが事務所を立ち上げて四半世紀が過ぎるけど、今までいろんな人たちから、いろんなことを、たくさん学ばされてきたなって思う。出会いに恵まれてきたよね。なかでも高橋さんたちから学んだことって、すごく多くて。

由比
最初につくったのが『鎌倉山の家』だったというのも、すごいラッキーなことだったと思う。

貴晴
出会った人たちのライフスタイルが、自分たちの中にどんどん蓄積している感じ。「建築家は受け売りのかたまりだ」って言われているけど、自分たちを考えてみると、今まで仕事で関わってきた人の言ったことを受け売りしているだけだなって思うね、ほんとに。
たとえば、菌の話は『チャイルド・ケモ・ハウス』の楠木先生、『空の森』の徳永義光先生から聞いたことだし、貧困の話は『軒の教会』奥田知志牧師先生から、子どもの話は『ふじようちえん』の園長先生から、建築家というのは、そういう素晴らしい人たちに出会える職業です。それで自分の知らない世界のことをたくさん学ぶことができる。人間って、ずっと学び続けられる動物だと思うんです。世界は変わり続けるから自分も変わっていかなきゃいけない。いろんな文化に触れながら、人の知識をもらえる職業だと思います。もしかしたら親からもらった核というものが、由比にも僕にもあって、生まれつきというのもあるかもしれないけど、大学を出て務めたリチャード・ロジャース事務所で働くことになったことも含めて、これまでの出会いが素晴らしかったんだと思う。

由比
つくることで毎回学ばせてもらってきた感じ、すごい自分たちは恵まれているなって思います。