(構造を学んでいる学生達への覚書)
鉄骨建築の難易度は高い。理由はそのパーツの多さにある。木造は積み木を組み立てて行く要領で注意深く作ればなんとかなる。何よりも軽い。鉄筋コンクリート造は壁や床や天井が一塊でできる。自由な造形もできる。その一方で鉄骨は全てパーツの寄せ集めである。現場で造形できることは少ない。全て予測して図面に表し、バラバラに発注せねばならない。そのパーツとパーツをくっつける時には、俗称ファスナーという部品が必要になる。
それでも鉄骨を世の中が使うのは、自然界の中で豊富に入手できる構造材として群を抜いて強いからである。その気になれば1000メートルを柱なしで掛け渡すことも可能である。高さ1000メートルの超高層も可能である。多くの建物がその大きさにならないのは、経済的に必要がないからである。建物が小さければ驚くほど細い構造で支えることができる。鉄骨の美学は軽さにある。
鉄骨は構造力学通りの挙動をしてくれる。鉄骨は素材から切削まで工場で管理されるので、品質が保証されている。地震時の動きもかなり予測ができる。木材やコンクリートの場合そうはいかない。木材は自然素材である。コンクリートは現場で固めるから、水分や温度の変化の影響を受ける。プレキャストコンクリートという製品はあるが、鉄骨の品質精度には敵わない。よって安全率という数字をかけて、予測不可能な出来事に備えて構造計算で必要以上の強度を持たせる。鉄骨はそういう予測不可能な領域が少ない。
靱性という特性も鉄骨ならである。鉄骨は歪んでも暫くは粘り強く外力に耐える。地震の時に最後まで残るのは大概鉄骨造である。超高層ビルが鉄骨造であるのも、構造設計さえ工夫すれば、軽く強い建物ができるからである。
それではなぜこの世の中の建物が全て鉄骨造にならないのか。最大の理由はその軽さにある。自重が小さい建築は揺れやすい。音も伝わりやすい。個人宅やオフィスの場合はその欠点は大した問題にはなりにくい。個人宅の場合は少々音がしようと原因は家族である。オフィスの場合は、皆忙しく働いているので、少々の音は気にならない。これが集合住宅やホテルとなるとそうはいかない。寝ている時は人の感覚は敏感になる。特に他人の音は気になる。ホテルの場合は尚更である。よって鉄骨で集合住宅やホテルを作る時には、遮音の為に重厚な壁や床を足す。そうすると鉄骨造は軽くなくなってしまう。超高層になるとどうせ鉄骨そのものも重量が大きいので、少々重いコンクリートを入れても問題にならない。しかし中層の場合は軽い構造に重いコンクリートを入れるというミスマッチが起こる。それが中層のマンションの殆どが鉄筋コンクリート造である所以である。
2003年にトヨタL &F広島の本社ビルを作った。45メートルのスパンの梁は極めて細い。600の梁背はスパンの1/70に過ぎない。そのプロポーションが実現した秘密は特殊な前提条件の設定にある。揺れても良いという決まりである。現場に着いた時は梁は大きく丸く膨らんでいた。それが自重で自然と沈んで平らになってバランスする。上を歩くと屋根が波打つ。台風時の変動は400を超える。それを吸収するディテールを設計した。実に単純な手品なのである。
軽さの対極にあるのがに松之山にある自然科学館、森の学校キョロロである。2004年。建物は世界有数の豪雪地帯にある。積雪は時に6メートルを超える。その荷重は1500kg/?にも及ぶ。鉄骨のフレームをチューブ状に組み、外壁を全溶接のコールテン鋼で作った。重量は2500tを超える。潜水艦と同じ構造である。極めて強い。確認申請上は法的に外壁を構造に含める事はできない。よってフレームだけでも法を満たす強度がある。しかし実際には外壁と一体となってモノコックな極めて強い構造となっている。難しい点は建築の伸び縮み。鉄であるから、冬と夏で長さが違う。建物の長さは120メートル。20センチ伸びる。だから伸び縮みを飲み込む基礎の仕組みになっている。






