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音響の覚書3 番町教会

2025/12/24

パイプオルガンの調べ。音が立ち昇る。天井に穿たれた井戸から天使の階段が降りる。旧約聖書の出エジプト記を頼りに、エジプトのデンデラ神殿にて出会った天井に穿たれた明かり取りに天啓を得た。パイプオルガンの調べは低く重い。人の耳には聞こえない。音が延髄を震わせ脳幹へと情報を送る。人という種が知性を得る前から存在する心の深い奥へと訴える。

番町教会にはパイプオルガンがある。パイプオルガンの歴史は古い。ゴシック以来の教会の歴史は、パイプオルガンによって刻まれて来たと言っても過言ではない。パイプオルガンそのものの歴史は紀元前一世紀に遡るとも言われているが、教会の楽器として普及したのは13世紀である。今我々が目にする偉大な教会建築群の殆どは、パイプオルガンより新しい。音が殆どの会堂より先にあったのである。さらに前には光があった。現代において、この光と音を揃えることは容易でない。パイプオルガンが電子機器に置き換わり、製作する会社が変わってしまった。そして何よりパイプオルガンを導入するためには、空間をパイプオルガンが設置できるように設計しなくてはいけない。構造の話ではない。音響空間である。重低音を受け止める分厚い壁。高音を跳ね返しながらも、柔らかな肌理を作る仕上げ。かつての石造教会であたりまえに実現できていたことが、現代建築にとっては難しい。現代建築は軽いからである。パイプオルガンを設置するためには、建築そのものを楽器として設計しなければならないのである。パイプオルガンは無くならない。パイプオルガンの臨場感は、到底電子機器で置き換えられるものではない。これはどんなに電子バイオリンが進化しようと、本物のバイオリンに替わることがないのと同じである。

番町教会の壁は厚い。重低音を受け止める為である。壁は微かに傾いている。左右対称ではない。音が対象形となり不自然となる中心を作らない為である。壁は手仕事を残した大きな起伏の佐官仕上げとした。佐官の名手、久住氏の作品である。吸音はパイプオルガンが設置されているバルコニー下の天井に仕込んだ。多少の懐を設けて、深みのある音を作り出す。

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