理想の病院は家。理屈は実に単純で診療所の周りに住宅が沢山あれば、小児癌を抱えた子供達の家族の生活は劇的に改善される筈だというものである。独立した家であれば家族は子供と毎日でも会えるし、子供の好きな食事を提供することもできる。子を愛する親の介護に勝るものはない。
小児癌の子供を抱える親達が望むのは贅沢ではない。最低限のあたりまえの生活である。最低限のあたりまえの生活とは、家族で食事を囲めて夜眠れるベットがある場があるということである。この世間の常識が医療の世界では非常識に変わる。特別室でさえこの最低限の生活をするための空間の広さはない。特別室の値段は法外である。普通の個室でも差額ベット代は一日3万円。六畳一間になんと一月90万円である。如何なる都心高級マンションよりも高い。建築設計者に言わせれば、クリーンルーム仕様にするだけならば、普通のマンション建設単価の二割増し程度であろう。家賃月15万円でも取れればじゅうぶんな筈なのである。そこには差額ベット収入に頼らざるを得ず、広い部屋を作ったからといって家賃を取ることが許されていない病院側の事情がある。寄付で成立しているチャイルドケモハウスは特例である。
複雑な平面計画は関係者との創意工夫の積み重ねである。住戸は五件単位が小さな中庭を囲むクラスター状となっている。家族同士が支え合いやすい単位を作る為である。病院にありがちな真っ直ぐな廊下はない。病床から見る全ての窓は小庭に面していて、互いに見合うことがない。プライバシーを保つ工夫である。全ての病床の上には天窓がある。空を見るためである。施設の中心にはガラス張りのキッチンがある。給湯室ではない。どんな料理でも作れる本当のキッチンである。キッチンは親同士の貴重な交流の場である。ガラス張りであるから、いつでも親は子供の目に入る。各住戸には病院側とは別に外から直接入れる玄関がある。夜仕事先から気兼ねなく親が帰宅するためである。
チャイルドケモハウスに入れる小児癌の子供達は少数である。今回のチャイルドケモハウスはプロトタイプに過ぎない。小児癌に限らず同様の矛盾に落ち込んでいる難病の子供達その家族がいる筈である。今回のチャイルドケモハウスが医療上も行政上も成功を納め、この活動が大きな広がりとなって全国へ世界へと広がっていくことを願っている。