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二日目 歓迎

2022/12/2

暗闇の中に一群が待っていた。歓声をあげている。夜9時過ぎなのに外で子供達が待っていてくれたのだ。首に歓迎の印の白い布をかけてくれる。暗闇の中に瞳がキラキラと輝いている。歓迎のダンスが始まった。ホワイトライオンに扮した子供たちである。心が震えて声も出ない。今まで建築家として260以上の建物を作ってきたが、こんな歓迎を受けたことがない。頭を振り立てつつ体を激しく回す。軽やかな足取りは、ジャングルを這う猛獣のように宙を飛び、全く音をたてない。リズミカルな太鼓の音だけが鳴り響く。

我々がこのプロジェクトに関わることになったのは、2021年の3月に受けた一本のメールである。ヒマラヤの奥地に孤児院の建物を作りたいから手伝ってほしいという。こういうプロジェクトの常で、当初の予算はゼロである。我々が関わるプロジェクトはこの類が多い。いくらインドの奥地でもタダでは建設できないであろうからと、資金集めに協力することにした。我々はCGイメージを作って寄付することにした。イメージとはいえちゃんと平面計画も作った。プロである以上妥協はできない。立派な動画が出来上がった。すると今年の8月ごろ連絡が来た。資金の目処がついたので始めたいという。建設費が日本の十分の一にも満たないプロジェクトであるから、どうやってもまともな設計料は期待できない。しかし私はこのプロジェクトを愛してしまったのだ。105人の命を守る仕事である。来てくれという。ここまで来て引くわけにはいかない。「やろう」と一言言ったら、担当のポルトガル人のルイジと秘書が話して、気が付いたらこの地に来ていた。これを成し遂げればさらに30人の幼い命を救えるかもしれない。生きがいを見つけた。会社の利益を食うわけであるから、社員たちにも話をした。会社の利益が減ればボーナスも減る。しかし反対する社員は一人もいなかった。社員は仲間であり宝である。

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