魔法瓶が出てきた。魔法瓶は立派である。茶かなと思って期待していたら、アルミのヤカンに移している。あれはヤカンではない。酒の為の注器である。日本ではチロリという名の通りチロチロと注ぐものであるが、ここではまるで茶のように注ぐ。例によって私は一番大きな飯碗のような盃である。酒は例によって例のごとくお母さんの味のチャンである。危険を察知したソラジは師匠を守らず家の外に逃げ出している。まだ昼間だというのにやっていることは昨日の呑み会と同じである。ただし今日はお屠蘇でも注ぐように静かに艶やかに注がれる。注ぐお姉さんはこれまた日本人顔で、東京都市大学の手塚研究室の学生と変わらない。しかし駆けつけ3杯の習慣は変わらず、アルコールは着実に血管に侵入し、指先が危うくなってくる。家の主人は酒をしっかり呑んでくれる客を見て安心の微笑を目尻に浮かべている。ここでは客を千鳥足になるまで酔わせて、接待が成功したとみなす。集落の調査に来たのに、これでは仕事にならない。