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さかなの学校

2023/8/10

敷地は三浦半島の三崎港の突端にある。太平洋に突き出した防波堤に寄り添うように設えられた人口地盤である。ほぼ埠頭と言っても良い。もとより人の住む環境ではなく、ましてや通常の学校が建つような場所ではない。強風時には大きな波飛沫が押し寄せる。目の前は太平洋の荒波である。ここに専門学校を作って欲しいとの依頼が来た。さかなの学校である。もちろんさかなを教育するわけではない。さかなに関連する諸事を人間が学ぶ場所である。厳しい環境であるが、さかなの学校には相応しい。隣は三崎港であるから魚はいくらでも上がってくる。一階の階高が10メートル弱ある。波を避ける為である。柱や梁も極めて太い。土木構造物に近い。一階の外壁はイザという時に水圧を受けずに吹き飛ぶ計画である。大きな軒下がある。軒下には半外部に相応しい生簀や漁具が並ぶ。座学の教室は全て安全な2階にある。2階の印象は軽い。屋根はフラットスラブで鉛直力は90×90の細い無垢の鉄骨柱で受けている。水平力は吹き抜けの四隅にある太い柱で負担するので外からは見えない。

普通の専門学校は欲しくないと言う。「ざっくりとした感じ。」という。よって「食べれる水族館」と言うコンセプトを思いついた。埠頭に見られる魚河岸と水族館の掛け合わせである。特化はせず様々な職能を横断して活躍する柔軟性に富んだ人材を育てようと試みている。ここの水族館では通常隠れている筈の配管やタンクが剥き出しである。今後は工場のように頭上をパイプは這い回りタンクが所狭しと繁殖してゆく予定である。配管を作るのは学生たちである。学生は入学時に水槽を一つずつ与えられ魚を育てる。育てるのは通常の水族館が収集する希少種である必要はなく、目の前の太平洋に住まう鯵やヒラメである。卒業時には、その魚を持って帰っても良いかもしれないが食べても良い。そういう生活と密着した魚の関わりである。目的は鑑賞ではない。生業である。

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